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農業と科学 平成24年6月
本号の内容
§リン酸,力リの減肥が小ギクの収量・品質と土壌理化学性に及ぼす影響
沖縄県農業研究センター
比嘉 明美
§起生期土壌診断による秋まきコムギに対する窒素の施肥設計(後編)
北海道オホーツク総合振興局 産業振興部
網走農業改良普及センター 紋別支所
興部(おこっぺ)分室
専門普及指導員 佐藤 康司
§北海道産米「ゆめぴりか」のブランド化に向けて
北海道農政部食の安全推進局
技術普及課(研究連携グループ)
主査(研究) 後藤 英次
(前 北海道立総合研究機構農業研究本部 企画調整部 地域技術グループ)
沖縄県農業研究センター
比嘉 明美
肥料価格は,近年の穀物価格の上昇や穀物生産の増加により世界的に肥料需要が高まり,世界各国において上昇している。一方,園芸作物が栽培される畑地では全国的にリン酸・カリの蓄積が進んでいることが指摘されている。沖縄県においても定点調査やモニタリング調査で可給態リン酸が調査を重ねるごとに増加しており,交換性カリも増加傾向がみられる1)2)The following is a list of the most common problems with the "C" in the "C" column.
小ギクは沖縄県においてはさとうきびに次いで生産が盛んな農作物であるが,小ギクに対する施肥量は九州・沖縄地域でも多いレベルにあり過剰施肥が懸念されている。一般的にカリは贅沢吸収されやすい要素とされているので過剰な施肥が行われている場合もあると考えられる。そのため環境負荷の低減やコスト面からの肥料の削減が求められている。
沖縄県には特性の異なる3土壌が分布している。本島中北部,久米島,石垣島の丘陵地に分布する風化の進んだ強酸性の赤黄色土である国頭マージ,石灰岩台地上に分布する弱酸性から中性で暗赤色の島尻マージ,中南部の小起伏丘陵地に広く分布する灰色でアルカリ性のジャーガルである3)。
県内での小ギクの栽培は上記の特性の異なる3土壌で栽培されており,作型としては正月出荷用の12月収穫体系と彼岸出荷用の3月収穫体系がある。
本試験では,リン酸とカリの成分を減らしたハイパーCDU入り配合肥料を使い,沖縄の代表的な3土壌を用いて,彼岸出荷用の3月収穫体系でリン酸,カリの減肥が小ギクの生育・収量・品質に及ぼす影響について検討した。
沖縄県内で小ギ、クの主たる肥料として利用されているCDU肥料とこれよりも温度依存性が小さく低温期でも肥効が持続されるハイパーCDUについて埋設試験を行い窒素溶出率を調査した。
試験実施場所は沖縄県農業研究センター(糸満市)で供試土壌は,ジャーガル,島尻マージ,国頭マージを用いた。埋設および堀取り方法はハイパーCDU,CDUを各々土壌と混合した物を不織布の袋に入れ,各土壌の深さ5~10cmに2008年8月28日に3反復で埋設した。埋設から約3週間後,6週間後,9週間後,その後は約1ヶ月間隔で4ヶ月後まで堀取り,分析に供した。全窒素はケルダール法で測定した。
供試した土壌の化学性を表1に示した。ジャーガルはpHが8.1の強アルカリ性で全窒素含量は0.1%以下,交換性陽イオンの中で交換性カルシウムが1358mg/100gで非常に高く,交換性マグネシウム58mg/100g,交換性カリウム24mg/100gであり,可給態リン酸(有効態リン酸)は1.3mg/100gで非常に低かった。
島尻マージはpHが6.5で微酸性を示し,交換性カルシウムが363mg/100gで最も高く,交換性マグネシウム42mg/100g,交換性カリウム22mg/100g,可給態リン酸5.1mg/100gとなっていた。
国頭マージはpHが4.74の強酸性で全窒素含量は0.1%以下,交換性カルシウムが18mg/100g,交換性マグネシウム9mg/100g,交換性カリウム8mg/100gで,交換性陽イオンが非常に低く,可給態リン酸も0.1mg/100g以下と低い典型的な国頭マージであった。
3土壌とも可給態リン酸の低い養分蓄積の少ない土壌であった。
埋設試験は2006年の農業研究センター移転後緑肥以外の栽培歴,施肥歴のない圃場で行った。

表2に試験区の構成及び施用量を示した。試験区は,
①リン酸,カリ肥料標準量を全面に施用したPK標準区,
②リン酸及びカリ肥料を減らしたPK減肥区,
③②+窒素減肥区
を設置した。

実施場所は農業研究センター内雨よけハウス,試験規模は1区3㎡,3反復,供試品種は「みさき」を用いた。栽植密度は畦幅1.5m,株間15cmで56株/区として2009年11月18日に定植した。基肥は11月11日,追肥は12月8日,2月4日に行い,小ギクの摘心は12月1日,整枝を2010年1月6日に行い3本仕立てとした。消灯は1月15日,再電照1月19日,最終消灯1月29日,収穫調査を3月16日~18日に行った。供試土壌は島尻マージ,国頭マージを用いた。表5,6に示した栽培前の土壌の化学性は,両土壌とも可給態リン酸が低い養分蓄積の少ない特徴であった。
農薬,除草剤散布等の栽培管理については花きの栽培要領(沖縄県農林水産部)に従った。
小ギクの収穫調査は1区当たり20株刈り取り後,株重,草丈,切り花重を調べた。無機成分調査は4株採取し,乾燥粉砕後リン,カリウムを測定した。土壌の化学性分析のために栽培前,栽培後土壌を採取し,風乾後2mmのふるいを通した細土についてpH,全窒素交換性カルシウムおよびカリウム,マグネシウム,ナトリウム,可給態リン酸を測定した。
ジャーガル圃場での窒素の溶出率は,埋設から22日後ではCDUが高いがそれ以降ハイパーCDUが経時的に増加し,約4ヶ月(116日)後の溶出率はハイパーCDUが73.2%,CDUは53.0%であった(図1-1)。

島尻マージでは,埋設から2ヶ月(60日)後まではCDUと同様に推移し、2ヶ月以降ハイパーCDUが高くなった。約4ヶ月後の溶出率はハイパーCDUが57.2%,CDUは36.3%であった(図1-2)。

国頭マージでは,埋設から22日後まではCDUが高いがそれ以降ハイパーCDUが経時的に増加し,約4ヶ月後の溶出率はハイパーCDUが59.7%,CDUは37.4%であった(図1-3)。

ハイパーCDUの窒素溶出率はジャーガル,島尻マージ,国頭マージのすべての土壌でCDUより増加した。
このようにハイパーCDUはCDUに比較して施肥後60日以降も窒素溶出量が増加し,溶出率も高くなることから,窒素の利用効率を増加させると推察される。
島尻マージ,国頭マージの両土壌のPK減肥区では小ギク整枝時(定植48日後)の草丈,株重ともに減少することもなくほぼ同等であった(図2-1,2-2)。生育前期の植物体に生育差がないことから基肥のリン酸,カリの減肥の影響はないものと推察される。


島尻マージでは,収穫時の切り花重,L品率,商品化率ともPK減肥区が最も高くなった(表3)。

国頭マージではPK標準区でL品率が高い傾向を示したが,商品化率はPK減肥区が最も高くなった(表4)。

最終生産物の切り花品質に差が認められないことから,小ギクの全生育期
間を通してリン酸・カリの施用量は充足していると考えられる。
島尻マージでは,リン酸吸収量は2.9~3.4kg/10aの範囲にあり,カリ吸収量は19.8~22. 7kg/10aで処理の差は認められなかった(図3-1)。リン酸のみかけの利用率はPK標準区で10%,減肥区で33%,カリのみかけの利用率はPK標準区71%,減肥区では210%であった。

国頭マージでは,リン酸吸収量は4.6~5.6kg/10a範囲にあり,カリ吸収量は33.6~34.1kg/10aでPK標準区で高い傾向を示した(図3-2)。リン酸のみかけの利用率はPK標準区で14%,減肥区で39%,カリのみかけの利用率は標準区103%,減肥区では253%であった。

このように,両土壌において小ギクのカリ吸収量は,リン酸の6倍以上で高い吸収量を示した。しかし,カリは贅沢吸収するため吸収量から減肥の有無を推測することは困難であると思われる。
栽培後土壌の化学性は島尻マージ圃場では可給態リン酸が全処理区で栽培前に比較して増加・蓄積傾向を示した。交換性カリについてはカリ肥料を減肥した区を含め全ての区で増加傾向を示した(表5)。これは小ギクによって吸収される量以上の余剰のリン酸・カリ肥料が栽培後の土壌に残存したためと考えられる。

国頭マージ圃場では可給態リン酸が全処理区で栽培前に比較して増加傾向を示し,交換性カリは全処理区で減少傾向を示した(表6)。

これらの結果より,リン酸に関しては小ギクによる吸収で持ち出される量以上に余剰の肥料が残存するため増加するが,カリについては吸収で持ち出される量が土壌からの供給を上回るため減少すると考えられる。
埋設試験および栽培試験の結果より,島尻マージ圃場では小ギクの切り花重,L品率,商品化率等の品質に差は見られないこと,リン酸・カリ吸収量に差が認められないこと,また栽培後の土壌の可給態リン酸・交換性カリが増加することなどから,PK肥料低減の可能性が示唆された。
国頭マージ圃場では小ギクの切り花品質,リン酸吸収量に差が認められないこと,また,栽培後土壌の可給態リン酸が増加していることから, リン酸肥料低減の可能性が示唆された。しかし,カリについては栽培後土壌の交換性カリが減少していること,栽培前後の国頭マージの交換性カリ含量がか
なり低いことから,カリ肥料については当面の間標準量の施肥が必要と考えられた。
しかし,今回の試験は両土壌ともに牛ふん堆肥3t/10aを併用した結果である。このため堆肥由来の肥料成分が含まれていることを考慮すると,リン酸・カリの成分を減らしたハイパーCDU入り配合肥料は牛ふん堆肥3t/10aと併用することで沖縄県の小ギク栽培において利用できると考えられた。
1)土壌保全対策事業成績抄録,
沖縄県農業試験場,p1~13(1994)
2)平成20年試験成績概要書,
沖縄県農業研究センター土壌環境班,p57~61(2009)
3)久場峯子,
沖縄の農地の実態と土壌管理,土壌化学性とサトウキビ畑における施肥管理,ペドロジスト,第37巻第2号,p60(1993)
北海道オホーツク総合振興局 産業振興部
網走農業改良普及センター 紋別支所
興部(おこっぺ)分室
専門普及指導員 佐藤 康司
前号では,北海道における秋まき小麦の栽培概要として栽培地域,気象条件,栽培面積,品種と収量,栽培体型について述べた。
今号では、北海道の中でも大規模な畑作農業が展開されている東部畑作地帯における秋まき小麦の土壌窒素診断技術と,それに基づいた窒素施肥について説明する。
起生期の無機態窒素診断の背景となった事柄は以下に示す①~③の3点である。
①前述したように十勝・網走地方では収量が高く,これに対応して窒素施肥量も増加傾向にあるが1),多肥による倒伏が目立っている。
②2005年産から品質(子実タンパク質含有率など)により価格差が設定されたため,今後は子実タンパク質含有率のより一層の規格内安定化が重要となった。
③近年,窒素施肥量や堆肥等の有機物施用量の増加により土壌中の無機態窒素が蓄積傾向にあり,このことが地下水などの硝酸態窒素汚染の原因となる危険性があることから窒素施肥の適正化が求められている。
したがって,十勝・網走地方を対象に,土壌中に残存する無機態窒素を評価するとともに,それに対応した窒素追肥量を設定した。
2000~2003年に播種された十勝・網走地方の秋まきコムギ品種「ホクシン」栽培圃場のべ164圃場(表1)において,融雪後から起生期追肥(4月中~下旬)までの間に,深さ20cm毎に最大100cmまでの土壌(1圃場につき4ヶ所)を採土器(写真1)で採取し,無機態窒素を測定した。


秋まきコムギにおける土層深別の窒素利用率を求めるために,採土器を用いて,深さ10cm,30cm,50cm,70cm,90cmまでの孔(直径2.2cm)を開け,これらの孔に重窒素で標識された硝酸石灰を窒素として5.7kg/10a施用した。成熟期にコムギの収穫を行い,作物体を深さ別の窒素利用率を求めるために分析に供した。
(1)の調査で土壌中の無機態窒素を測定した圃場において,成熟期に1区当たり3.6㎡を収穫し,乾燥後,脱穀した。得られた子実を105℃で2日間乾燥させたものを絶乾重とし,水分13.5%に換算して粗収量とした。
作物体の窒素含有率は,子実,稈,穂殻を粉砕した試料について硫酸一過酸化水素分解法により分解した後,自動分析装置(AACS-ⅡまたはFIA Star)によって測定し,それぞれの乾物重を乗じて窒素吸収量とした。子実タンパク質含有率は窒素含有率に蛋白換算係数5.70を乗じ,水分13.5%ベースで表示した。
土壌の深さ60cmまでの無機態窒素量を測定した結果,十勝地方においては平均5.8kg/10a(最低1.4kg/10a,最高16.4kg/10a),網走地方では十勝地方よりも多い平均11.9kg/10a(最低3.2kg/10a,最高30.8kg/10a)が残存していた(図1)。

十勝地方を例として深さ100cmまで採土できた圃場について無機態窒素量(アンモニア態窒素と硝酸態窒素の合量)と硝酸態窒素量の関係をみたところ,どの圃場でもアンモニア態窒素量はおよそ2.1kg/10aとほぼ一定かつ少量で,硝酸態窒素量の変動が大きいことが明らかとなった(図2)。

土壌診断を行うためには,コムギがどの程度の深さまで無機態窒素を吸収するかを知ることが重要である。そこで,重窒素を用いて秋まきコムギの深さ別の窒素利用率を測定した。深さ10cmに重窒素を施用した場合のコムギの重窒素利用率を100として各施用深の相対値を検討した結果,80cm以深の重窒素利用率は0~80cmの土層と比較して大きく低下していた(表2)。

しかし,0~80cmの土層を採取することは石礫の出現によって不可能であったり,土が硬くて採土が大変であることが多いため,0~60cm土層中の硝酸態窒素量の関係をみた。すると,両者の間には正の相関関係が認められた(図3)。このことは,道東の秋まきコムギ圃場の起生期においては0~80cm土層中の硝酸態窒素量は,0~60cm土層中の硝酸態窒素量を測定することで推定できることを示している。

北海道の秋まきコムギは,起生期以降に窒素追肥を行うので,起生期の深さ60cmまでの硝酸態窒素量と起生期以降の窒素追肥量を合計して窒素供給量とし,コムギの成熟期における窒素吸収量との関係を検討した。その結果,地域や土壌による影響は小さく,有意な相関関係(十勝:r=0.59**,網走:r=0.63**)が認められた(図4)。

また,両地域で回帰式にほとんど差がなかったことから,十勝地方における窒素吸収量と窒素供給量の関係式(1)を用いて,起生期以降の窒素追肥量を設定した。
y=0.51x+7.73・・・(1)
X=起生期の土壌中の硝酸態窒素量(x1:kg/10a)
+起生期以降の窒素施肥量(x2:kg/10a)
y:窒素吸収量(kg/10a)
x:窒素供給量(kg/10a)
x2(y-7.73)/0.51-x1・・・(2)
となり,起生期以降の窒素追肥量x2は窒素吸収量と土壌の残存硝酸態窒素から,関係式(2)を用いて計算で導き出されることになる。
一方,窒素吸収量と粗収量とは一般に正の相関関係にあることが知られている2)。そこで,十勝地方の調査圃場について粗収量と窒素吸収量の関係を子実タンパク質含有率の水準別に区分して検討した結果,有意な相関関係が認められた(図5)。

日本めん用コムギの子実タンパク質含有率の基準値は2005年産現在では9.5~11.5%であるが,過度に上昇するとコムギ粉色が悪化する危険性がある2)ことから,本研究における子実タンパク質含有率の目標値は10.0%とした。この値を中央値として9.5~10.5%の試料を対象としたところ相関係数はr=0.87**(n=41)と高かった(図5,③式)。
以上のことから,目標収量を得るための窒素吸収量が設定され,さらに土壌中の硝酸態窒素量を測定することにより,図5の③式から目標収量を得るために必要な窒素追肥量の設定が可能となる(表3)。例えば表3において,収量水準を600kg/10aとすると,窒素吸収量の目安は14kg/10aとなる。ここで,起生期の土壌中の硝酸態窒素量が4kg/10aであれば,起生期以降の窒素追肥量は8kg/10aと設定され,硝酸態窒素量が8kg/10aであれば,窒素追肥量は4kg/10aとなる。

圃場データを用いて,本試験で設定された窒素吸収量(想定窒素吸収量)と実測した窒素吸収量(実窒素吸収量)との適合性を検証するとともに,不適合要因を解析した。その結果,7割以上が±2kgN/10aの範囲にあり,本法の適合度は高いと判断された。不適合圃場は多量に有機物を施用した圃場や起生期の生育量が大きく劣る圃場などであった(表4)。

農業現場に出ると,そこには様々な疑問や発見が散在している。新たな気持ちで現場に出て,様子を見聞きして刺激を受けることが大切である。今回紹介した技術が現場で利用されているかどうか,確と振り返ることが求められる。
普及活動に携わる者として,技術を「伝える」ことから一歩進んで,技術
が「伝わる」ことを望んでいる。
1)十勝管内土壌診断事業推進協議会:
十勝畑作地帯における施肥の実態,p.53~56(2002)
2)中津智史・渡辺祐志・奥村理:
窒素施肥および収穫前の降雨が小麦品質に及ぼす影響,土肥誌,70, 514~520(1999)
北海道農政部食の安全推進局
技術普及課(研究連携グループ)
主査(研究) 後藤 英次
(前 北海道立総合研究機構農業研究本部 企画調整部 地域技術グループ)
かつての北海道米のイメージは芳しくなく,「白くない,硬い,ぼそぼそす
る」「時間が経ったらおいしくない」と評され,さらには「ヤッカイ道米」と言われたりすることさえあった。これは,ほぼ4年に一度の確率で冷害に見舞われるような,寒冷な気候における北海道稲作のハンディキャップがあったことが大きい。この状況を打開するため,農業試験場において新品種の育成と栽培技術の改善試験が行われ,「ほしのゆめ」「ななつぼし」「ふっくりんこ」といった耐冷良食味品種が育成・作付けされた。その間,JA・農業改良普及センター・生産者による安定・高品質に向けた生産体制の確立,ホクレン・米穀庖等による情報発信やマーケット開拓も図られた。これらの取り組みは多くの時間と労力をかけながらも,着実に実を結び,近年では府県からも食味・品質の高さが注目されるようになってきた。このような状況の中,北海道立上川農業試験場で育成された極良食味品種「ゆめぴりか」が,平成20年に北海道優良品種となった(写真1)。「ゆめぴりか」は日本穀物検定協会の米ランキングにおいて,「ななつぼし」ともに,平成22年と23年の2年連続で特Aを獲得した(但し,平成22年は参考品種)。北海道産米にとって“特A”ランクというのは悲願であり,2年連続獲得はまさに快挙とさえいえる出来事であった。また,この北海道産米のおいしさは道民にも広く浸透し,平成の初め頃には3割台にすぎなかった道内食率(北海道内の米消費に占める道産米の割合)も,平成23年には82%を達成した。以下では, この「ゆめぴりか」の育成と普及がどのように行われたかについて紹介する。

一般に北海道のような寒冷な気象の場合,アミロース含有率が高くなりやすく,炊飯米の「粘り」が弱くなる傾向にある。そのため,高い食味を得るためには,まずアミロース含有率が適度に低い米が必要とされた。先行して品種化されていた「おぼろづき」のアミロース含有率は適度に低く,食味が優れる銘柄米としてブランド化されていたものの,粒厚が薄く,収量性の低いことが課題であった。一方,「ほしのゆめ」はこれまで北海道米の食味向上に貢献してきたが,食味は「おぼろづき」に劣り,収量性も高くないことから,作付意欲が減退基調にあった。したがって,低アミロースに由来する優れた食味(程良い“粘り”と“柔ら
かさ”)と粒厚を改善して収量性向上を併せ持った品種開発が必要とされた。
「ゆめぴりか」は平成9年に上川農業試験場において,低アミロース良食味系統「札系96118」(後の“北海287号”)を母,多収良食味系統「上育427号」(後の“ほしたろう”)を父として交配された(図1)。

交配した平成9年の冬期に温室にて養成したF1を葯培養に供試(2万3228葯)し,その固定系統から温室での選抜を経て,平成11年から「AC99189」として生産力検定試験,特性検定試験および、食味官能試験が行われた結果,有望と認められたので平成17年に地方番号「上育453号」が付けられ関係機関で地域適応性を検討後,平成20年に品種登録に至った。
稈長はやや長く,穂数はやや多い“穂数型”に属する(写真2)。

出穂の早晩性は“中生の早”で「ほしのゆめ」と同じ程度,成熟期は「ほしのゆめ」よりやや遅い“中生の早”である。玄米の粒厚が「ほしのゆめ」「おぼろづき」より厚いため,千粒重が重く,収量も高い傾向にあった(写真3,表1)。


アミロース含有率は「おぼろづき」と「ほしのゆめ」の間に位置し,タンパク質含有率は「ほしのゆめ」並,炊飯米の食味は「ほしのゆめ」に明らかに優り,「おぼろづき」並からやや優った。実需者からは,「コシヒカリ」と比較しても遜色ない食味との評価を得ている。
ただし,障害型耐冷性は「ほしのゆめ」「おぼろづき」より若干劣る”やや強~強”,葉いもち圃場抵抗性は“やや弱”,穂いもち病圃場抵抗性は“やや弱~中”と十分とは言えない。したがって,基本技術である冷害危険期の深水管理や発生予察に基づく適切ないもち病防除の徹底が求められる。また,適度な低アミロース含有率の品種であるが,タンパク質含有率に関しては対象とされる「ほしのゆめ」並であり,栽培に当たっては多肥栽培を慎むなどタンパク質含有率を高めないような注意が必要である。
「ゆめぴりか」を全道的に作付けするに当たって,平成21年より上川農業試験場・中央農業試験場では,品質目標や栽培指針を策定するための試験を開始した。そこでは「コシヒカリ」に匹敵するおいしい「ゆめぴりか」を目指しており,「ほしのゆめ」を基準品種,国内でも評価の高い特A産地の「コシヒカリ」を比較品種として,多数の食味官能試験を実施した。
その結果,「ゆめぴりか」はアミロース含有率が適度に低い品種のため,炊飯米の“粘り””やわらかさ”が優り,これまでの主要品種であった「ほしのゆめ」などと比較してタンパク質含有率が若干高くとも良食味であった。しかし,炊飯米の外観品質である“白さ”や“つや”はタンパク質含有率が高いと劣る傾向にあり,タンパク質含有率について上限の設定が必要と考えられた。また,特A産地の「コシヒカリ」をターゲットにした場合,「コシヒカリ」の食味官能総合評価平均値は+0.4(「ほしのゆめ」=0とした場合)であったことから,それを上回るためのアミロース含有率とタンパク質含有率の目標を設定した(図2)。

具体的には,アミロース含有率19%以上の場合はタンパク質含有率6.8%以下,アミロース含有率19%未満の場合はタンパク質含有率7.5%未満を当面の品質目標として指導している(表2)。実際に,ホクレンで流通している平成23年産米の「ゆめぴりか」はタンパク質含有率7.4 %以下を基準としており,7.5%以上の産米は「ゆめぴりか」を用いたブレンド米などに使用するなど区別している。

このような品質を確保するためには,過繁茂を避け,倒伏させずに生育させることが大切である。そこで,平成22年の栽培試験結果を,倒伏させない範囲である程度収量を確保し,かつタンパク質含有率を適正にする観点から解析した結果,収量550kg/10a以上,かつ窒素玄米生産効率55以上,窒素吸収量10kg/10a程度が,当面の管理目標として示された(表2)。これに対応する窒素施肥量の上限は9kg/10aであり,概ね地域の施肥標準量に相当するため,第一に施肥基準を遵守する必要がある。
先に述べたように,品質管理目標において重要であるアミロース含有率は,登熟温度により変動し,特に低アミロース品種で変動が大きいとされる。したがって,年次や地域,また移植時期による出穂期の違いなどにより,アミロース含有率が変動しやすいので注意が必要となる。いずれの品種も登熟温度が高いほどアミロース含有率は低下し,出穂期後20日間日平均気温積算値と有意な負の関係が認められた(図3)。

「ゆめぴりか」のアミロース含有率が19%未満となる条件は,出穂期後20日間日平均気温積算値430℃以上であった。これにより,収穫前に気象データから当年のアミロース含有率が19%未満となるか概ね予想可能となり,タンパク質含有率に基づく集荷や販売方針の参考となっている。
生産現場において作付けされた産米のタンパク質含有率の実態調査を見ると「ゆめぴりか」は府県で知名度の高い「きらら397」と比較して低い傾向にあり(図4),これは品種特性と栽培管理の影響が考えられる。

栽培に関する技術指導が十分とは言えなかった平成21年の場合,山型の裾野は2品種とも広かったのに対して,平成23年を見ると,「ゆめぴりか」の山型が「きらら397」より鋭角で,高タンパク領域の裾野が小さい傾向にあった。品種特性に対応し,低タンパク質米生産を目指した生産現場のたゆまぬ努力が着実に反映されてきたものと考えられる。精米自度の比較では,「きらら397」「ほしのゆめ」より高い傾向にある(図5)。過繁茂を避けるなど適当な登熟条件に配慮しており,外観品質の“白さ”や“つや”の点においても,概ね高品質を確保していると考えられる。

「ゆめぴりか」は,当初より「コシヒカリ」と同水準のブランド米をターゲットにしていた。ただし,北海道は栽培地域も広く,土壌や気象の条件が大きく異なるため,以前から「品質のばらつきが大きい」と言われる。そこで,「ゆめぴりか」の無秩序な作付けを避けるため,生産者による“北海道産米の新たなブランド形成協議会”を設立し,産米の品質(具体的には低タンパク率,高整粒率など)を勘案しつつ,平成21年から段階的な作付拡大を進め,作付け3年目の平成23年は約1万ha(北海道水稲作付面積の1割弱)まで普及した。平成24年以降については,生産現場から大幅に作付拡大を望む声も強いが,全国的な良食味品種としての認知度を高め,「コシヒカリ」のマーケットに食い込めるようなブランド確立を優先するため,拙速な面積拡大を避ける方針にある。
生産技術においても,各地で「ゆめぴりか」の生産マニュアルや「ゆめぴりか」憲章などが作成され,栽培・品質管理の徹底が進められている。栽培技術や品質管理の向上に関しては,農業試験場での研究も継続されている。このように,“ゆめぴりか”は生産・流通・研究・普及が連携しながら「オール北海道」で,品質の地域や年次変動を抑制しつつ,食味ランク“特A”にこだわった取り組みを進めている。平成23年からは本格的な全国販売も始まり,今後も着実に販売が拡大する予定ですので,大いにご期待下さい(写真4)。
